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卒業生インタビュー:岡田 佳恵さん (IMBA 2019)

IEの目玉の一つであるStartup Lab、そしてそこから選ばれたチームが進めるアクセラレーションプログラムのVenture Lab。さらにVenture Labの優秀チームが参加できるVenture Day。社費生でありながら、アントレのカリキュラムを存分に堪能した岡田佳恵(かえ)さんにお話を伺いました。

 

医療とビジネス、どちらも興味があった

高校時代から医療を通じて社会に貢献したいという想いがあり、2007年に京都大学薬学部に進学しました。大学時代は、分子微生物学研究室で、C型肝炎に臨床応用されているインターフェロンというタンパク質が体内で産生されるまでにどのような分子が関わっているかを調べる基礎研究をしていました。

大学院卒業後、2013年新卒でドイツの製薬企業、バイエル薬品に、ファーストトラックプログラムというコースで入社しました。このプログラムは、数十年前にドイツ本社で始まったプログラムで、MR(営業)として現場の経験を積んだ後、国内・海外でのマーケティング部署で勤務し、海外のMBA取得を目指せるコースです。

私は、循環器領域で営業を2年程経験した後、日本の婦人科領域のマーケティング部署で3年半、プロダクトマネージャーとして新薬の上市を担当し、2018年からIE Business Schoolに留学しました。


 

しっかり組まれている人材育成プログラムなんですね。でもなぜ、研究ではなく、ビジネスに?


そうですよね (笑)

実は、祖父が1947年に会社を立ち上げ、私の父、叔父と共に家族経営しており、小さい頃からビジネスには馴染みがありました。私も、将来弟と一緒に起業し、家族経営できたらと思っているので、まずは私の興味のある医療分野でビジネスの基礎や現場感覚を学びたいと思い、製薬企業への入社を決めました。


 

留学は2018年9月からですね。


はい。受験勉強はちょうど丸1年かかりました。その頃は担当していた子宮内膜症の新薬が上市したばかりで、マーケティング業務が非常に忙しかったのですが、上司が仕事と受験勉強を両立できるよう、かなりサポートをしていただきました。


 

大阪にお住まいだったんですよね。


そうですね、大阪に予備校も少なく、あまり情報も得られなかったので(涙)、週末、東京の予備校に新幹線で通ってました(笑)。


 

それは大変でしたね。最終的にIEに進学した決め手は。


元々はアメリカのMBAに興味があり、アメリカの大学にいくつかキャンパスビジットをしました。やはり医療×ビジネスという軸で、アントレに強く、ヘルスケアに特化したプログラムがあるところを探し、特にノースウェスタン大学(Kellogg)やデューク大学(Faqua)に興味がありました。

Kelloggはマーケティング分野では圧倒的な強みがあり、またコラボレーティブなカルチャーが良く、非常に迷いましたが、結局、私が一番やりたい”起業”にフォーカスした授業やStartup Lab、Venture Labなど、IEではアントレを体系的に学べるのが魅力的でIEに決めました。

あと、卒業生の方々の印象がとても良く、面接対策やエッセイを一緒にやって頂いたり、キャンパスビジットの際にディナーに連れて行ってくださってIEやマドリード生活の魅力をたくさん教えてくださったり。先輩方には大変お世話になりました。優秀な方々なのに、エリート感を出さない、きさくな方ばかりで、そして型にはまっているような人が少なく、皆さんとても個性的で、なんて面白い学校なんだって思ったんですよ。


 

IEではStartup Labを選択しましたね。


実はこれは偶然だったのですが、私の京大の同じ研究室の先輩の、守口さんという方がIEの同期だったんです。守口さんが研究室2期生で、私が6期生で(笑)。その守口さんからStartup Labで一緒に起業をやらないかとお誘い頂いたのがきっかけでした。もともと京大のある研究室がiPS細胞の心筋細胞を、国内展開していたのですが、そのiPS細胞をヨーロッパの製薬企業、研究機関、ベンチャー企業に展開するため、守口さんがその研究室の教授と交渉をし、ヨーロッパでのiPS細胞の展開のために新たな会社を立ち上げることを検討されていました。守口さんのお話を伺い、とても面白そうですし、もし本当にヨーロッパに展開することができたら人生で大きな仕事をやり遂げることになりそうだなと思い、守口さんと一緒にやることに決めました。


人生で大きな仕事をやり遂げたい、そして起業へと始動

 

9月に入学して、自主的に 11月から始まったプロジェクトだけど、IEの学業と並行で動かしていたわけですよね。


そうですね。Startup Labはメンバーが3人以上いないと始動できないので、最初メンバー集めが大変でした。結局、メンバーを集めるのに1ヶ月かかったんですよ。

大変だった理由が、まずiPS細胞に馴染みがない、iPS細胞って何?っていうところから始まるんです。実はヨーロッパでは、ほとんどiPS細胞が普及していません。その理由が、ES細胞という同じ“幹細胞が”、不妊治療で使用されず廃棄予定の受精卵を用いるものの、発生初期の胚を破壊して作るため、子になる可能性を持った受精卵を壊すことにヨーロッパでは倫理的に疑問視されていたんです。iPS細胞も同じ幹細胞なんですが、自己の皮膚から取って培養するものなので、倫理的な問題はないのですが、そのES細胞のイメージがあり、ヨーロッパではまだまだ普及していないようです。


 

日本ではノーベル賞受賞から有名になったし、今では、色々な病気を治すのに応用できるという話を聞きますよね。


そうですね。IPS細胞は非常に画期的な細胞で、神経、心筋、血液など様々な組織や臓器の細胞に分化する能力があり、難治性の疾患に対する細胞移植治療などの再生医療を実現するために重要な役割を果たす細胞として期待されています。にも関わらず、ヨーロッパでは全然それが浸透していませんでした。

そこにヨーロッパ普及への使命感を感じ、守口さんのアイディアに乗っからせていただいてStartup Labの初期メンバーを集めてきましたが、なかなか集まらなくて(汗)。

私はFamily Business Clubに入っていたのですが、メンバー集めのために私の家でFamily Business Clubのパーティーを開いたりしていました (笑)。 


 

メンバー集めも本格的ですね (笑)


本当に (笑) 30人ぐらい呼んで、守口さんと一緒にひとりひとり地道に話していって、そこで1人メンバーをゲットすることができました (笑)。メキシコ人で大規模な酪農業を経営している家のご令嬢。それからFamily Business Clubのメンバーの伝手で紹介してもらったコロンビア人女性で、臨床試験の治験コーディネーター。最後に、このプロジェクトはマネタイズが割とできそうという理由で入ってきたアイルランド人男性。ホテルビジネスですでに起業しており、英語もネイティブなのでプレゼン等でも活躍できると思いました。


 

Startup Labではどのような活動をしていたのですか?


Startup Labは5週間という短い期間でしたが、毎週金曜日に行われる投資家へのピッチに向けて、投資家に対するプレゼンのストーリーの作成の仕方や、スライドの見せ方、プレゼン時の振る舞い等を勉強しました。

特に、外国人のプレゼンスキルは高く、日々勉強になりました。

また、授業ではインド人のSugata教授の”Lean startup”が特に印象に残っており、ビジネスモデルの構築や仮説検証の方法など、体系的に学ぶことができました。

Startup Labは、51チームありましたが、最終的に私たちのチームは、投資家へのピッチで2位を獲得することができ、無事Venture Labに進むことができました。


 

Venture LabはElective Periodの一部としてありますが、そのプログラムについてもう少し詳しく教えて頂けますか?


Venture Labは半年間ありましたが、実際に起業したい方が多い印象でした。

すでに起業をされている方が数人メンターとなり、ビジネスプランを見て頂いたりしましたが、半年間はIEのリソースをフルに活用して、起業の準備をできるという有難い期間になっていました。

私たちは、ヨーロッパの製薬企業の研究者が、iPS細胞を現在どの程度使用しているか、日本の教授が持つ細胞を研究材料として使用できそうかを確認するため、デュッセルドルフにあるバイエルの研究所に行き、日本の教授とSkypeで繋げて、iPS細胞や実験での使い方を説明しました。

結果、バイエルの研究者に興味を示して頂け、実際にComparative study(現在使用している細胞とiPS細胞を比較する試験)を組んでくださり、細胞のバリデーションを行いました。

 

また、IEのStartup Labの名物教授Paris教授の伝手で、いくつかヨーロッパの製薬会社にコンタクトをし、顧客開拓も行いました。会社設立についてはJeffrey Char教授に大変お世話になり、会社を設立すべき国やファイナンス関連やEquityの配分まで(笑)、ご相談に乗っていただきました。

 


 

卒業後はどうされたのですか?


5人で話し合った結果、卒業後は守口さんとアイルランド人、私の3人で起業しようという話になりました。

卒業後はSkypeで連絡を取り合いながら、会社設立の準備を進めていましたが、諸事情で続けられなくなり、残念ながら断念しました。。


 

これ、もはや学生生活じゃないよね、1人の起業家の話。


そうですね、結果として残念でしたが、これを機に守口さんという素晴らしいビジネス・パートナーや、IEの教授の方々、バイエルの研究者の方々と出逢え、大変良い経験をさせて頂いたと思っています。

今、私はバイエルに戻り、守口さんはVCに就職されましたが、今後もコラボできる機会もたくさんあると思っています。


 

ほぼ起業家のようにプロジェクトを動かしながら、MBA生活も送られていたわけですが、忙しすぎませんでしたか?


確かに、IEでの生活の半分以上はStartupに捧げていたと思います(笑)。でも、結構学生生活も楽しめましたよ。マドリードは都会で、街並みもとても美しく、学校近くのSerrano通りで買い物をしているだけでとても優雅で幸せな気分になりました。後、IEはマドリードのバラハス空港からタクシーで15分ほどと非常に近く、近隣のヨーロッパの国々への旅行も楽しめました。


 

最後に、MBA受験する人へのメッセージを。


人生で自分がやりたいことっていくつかあると思うんですけど、MBAはそれを具現化できる場所だと思います。自分自身のことをゆっくり考えられて、自分のやりたいことに全てを費やせる1年。こんな期間って、人生に1回ぐらいしかないと思います。受験勉強は大変だと思いますが、素晴らしい1年が待っていますので、諦めずに頑張ってください!

 

最後に、このようなたくさんの素晴らしい出会いと貴重な機会を与えてくださったバイエル薬品と、サポート頂いた皆様には心より感謝申し上げます。

 


 

ありがとうございました!これからもご活躍、楽しみにしています!