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卒業生インタビュー:松岡未季さん (IMBA 2014)

MBAを卒業して起業することは、最近は多くのMBA受験生の目標になってきています。しかしながら、卒業直後の起業というパターンはなかなか見かけないのも実情です。そんななか、私費留学し卒業後すぐにインバウンド・トラベル系の分野でKoi Travelを起業した松岡さんから、MBA留学の動機と起業を目指すことになったきっかけについてお話を伺いました。

 

IEで起業へのハードルが下がった

大学院を卒業後、新卒で野村総合研究所に入ってシンクタンク業務に従事していました。大学院の専攻が都市計画だったので、主に国土交通省、経済産業省といったパブリックセクターのコンサルティング業務を行っていました。入社3年目の終わりに震災が起き、4年目はずっと震災関連の防災の仕事をしていたんですが、それがキャリアを考え直すきっかけになり、MBA留学を意識し始めました。

MBA留学を考えたもう1つのきっかけは、当時付き合っていた今の夫が社費でMBA留学に行く話があり、そういうキャリア変更もありなんだなと気付いたことでした。留学準備を進めるうちに結婚することになったので、同じタイミングで留学しようと、2013年入学を目指しました。


 

ご夫婦で同時期に留学されたんですよね。


夫は金融勤務だったのでINSEAD一択でした。INSEADもいい学校ですが、出願時は金融業界の人が行く学校というイメージが強くて考慮に入れませんでした。学校を探す中でIEの多様性に富んだところと起業に強いところに惹かれて、GWに学校訪問したら自分にすごく合っていると感じたんです。ここしかない!とIEにだけ出願して、ギリギリの時期に合格することができました。


夫婦でスペインとフランスのMBA留学。遠距離夫婦を1年されたわけですね。


そうですね、私費だったのもあって、せっかく留学するんだから自分が行きたい学校に行きたい、遠距離生活も、時差がなければどうにかなるだろうと思っていたので、彼と同じ国に行こうとは思いませんでした。実際、国が違っても時差がなかったので問題なかったです。そもそも二人とも平日はあまりに忙しく、コミュニケーションをとる余裕もあまりありませんでしたし、朝と夜にテキストをやり取りする程度でした。


最初から起業を目指していたんですか?


出願のエッセイを準備する時に、コンサル勤務の自分になぜMBAが必要かという説明が必要だと思い、最初はその説明に説得力を持たせるために起業したいと書いていたんです。それが、エッセイに書いたり、何度も面接で話したりしているうちに自分自身が洗脳されてきて・笑。入学する頃には本当に起業したいと思うようになっていました。そこで入学後は起業関連の授業を積極的に受講して、身を入れて学びました。入学して4ヶ月経った頃にベンチャーラボを受講するための選抜試験を受けた時には、卒業したら旅行ビジネスのアイデアを形にしようという気持ちが固まっていた記憶があります。

 

あと、毎週木曜日に開催されていたベンチャーピッチで、ビールを飲みながら地元の若い子たちのスタートアップのプレゼンを聞いていたんですが、精度の低いものから良くできたものまで本当に玉石混合だったので、起業ってそんなに肩肘を張らなくてもいいんだと実感したのが大きかったです。それから、IEの同級生を見ていると、既に会社を一つ持っていて今は休ませて留学に来ているとか、起業に関してのハードルがすごく低かったんです。日本では今でこそこんなに起業が気軽になっていますが、2013年当時は人生最大の挑戦という雰囲気だったんです。でも、IEの環境に身を置いていたら、とりあえず起業してみたらいいんじゃないかと思えたので、どうせ起業するなら仕事も決まってない、子供もいない、若い今しかないと思って決断しました。

 


日本文化の神髄をちゃんと伝えるサービスを作りたい

 

起業するにあたり、インバウンド・旅行という領域にしたのには何か理由があったんですか?


前職最後の1年程、観光庁の仕事で、MICE(マイス)と呼ばれる、会議をどう誘致するか、これから観光の需要がどう増えるかという話に関わっていたんですが、観光業界について知る中で観光ビジネスは伸びると思ったことが最初のきっかけでした。

 

さらに、IEに入学して半年程経った4月にJAPAN TREK を企画した時、外国人が日本を観光するとしたら何ができるのか初めてきちんと調べたんですが、当時は質の高い英語のサービスがあまりなかったことがわかりました。通り一遍の観光地に行くのではなく、もっと深くちゃんと日本文化の神髄を体験できるサービスを提供できれば受けそうだと思い、観光客が日本文化体験で何ができるかをだんだん絞っていった感じですね。


 

Koi Travelのサービス内容について教えてください。


主に英米系の英語話者のハイエンドからアッパーミドルをターゲットにしたツアーを企画しています。ツアーは2種類あって、1つは普通のウォーキングツアーです。これはガイドさんをつけて表参道や代官山を歩いて、街と人を知ってもらうというツアーです。このツアーが売上的には一番高く、頻繁に問い合わせもきます。もう1つは弊社独自の文化体験ツアーで、日本の伝統工芸の職人さんに会いに行くツアーです。一番人気なのは日本刀を作っている工房で、東京から新幹線で1時間強かけて埼玉県まで行き、いかにして鉄の塊から美しい日本刀を作るかという工程の一部を見せてもらうツアーです。他にも、益子焼や備前焼のツアーは人気があってよく売れていますし、京都の螺鈿職人のツアーも人気があります。

 

職人さんと会って、話すことを通じて、日本文化や日本人について知ってもらうことをコンセプトにしています。旅行していると海外に身を置いていても、実際に現地の人と話す機会って意外とないですよね。ガイドを雇えばその人を通じて日本人というものが透けて見えますが、職人さんというのは、より、日本人らしさを自然に体現していると思うんです。日本の歴史、昔ながらの職人気質、なぜ日本人がマニアックなものを作るのかということが、職人さんたちと1時間話すだけでも体感できる、弊社のツアーのそういうところが受けてるいのかなと思います。ドイツ語圏からのお客様もいらっしゃいますが、主に英語圏からのお客さんが多いですね。

 


 

ユニークな体験ですね!日本人としてでも参加してみたい・・・。ところで、IEでの留学生活の中ではベンチャーラボやアントレ系の授業を取られていたと伺いましたが、他に印象に残っている授業はありますか?


コアタームのLeading Team and Peopleという、人材マネジメントの授業が、他国の学生との考え方の違いがすごく面白かったです。これはグループワークで自分が主導し、良い評価を貰えたのも良い思い出です。

 

後はスペイン人の女の先生のCorporate Financeの授業が面白かったです。この先生は、私の学年のベストプロフェッサーに選ばれるくらい人気があって、先日の同窓会でも講義してくださっていました。彼女は元々企業で働いていた人で、もちろん教科書の内容も教えてくれるんですが、実務に即した教え方をしてくれるので、理解しやすくて面白かったです。

 

一方で、イタリア人の先生の統計の授業は大変でした。天才肌な先生だったので、数学が苦手な私は本当に苦労しました。前職でもエクセルで重回帰分析したことはあったんですが、留学直前にパソコンをマックに変えたばかりだったので、そもそものパソコン操作から苦労していたのは苦い思いでです。

 


もっと地方に人を連れていきたい

 

同期の日本人とは交流されていますか?


皆さん、個性豊かで今も仲良くて、年に1~2回は集まっています。


 

私費で来ている日本人同期たちが就職活動をしている中で、自分はベンチャーを起業するという点で、迷いはなかったですか?


そうですね、今なら外資系のコンサルファームにも行けるだろうと思い、少し迷いました。でも、元の会社に戻ることが決まっていた夫が、「今しかできないし、とりあえずやってみなよ」と後押ししてくれたのもあり、もしうまくいかなかったとしても、MBAを持っていて、元コンサルで、起業経験があれば、またどこかに就職できるだろうという強気な気持ちで起業する決断をしました。

あと、私が卒業後すぐに起業できたのは、起業自体に必要な元手が少なくてすむビジネスモデルだったのと、生活費の心配をしなくて良かったという2点が大きいと思います。

 


 

なるほど。もし、もう1回 MBA に行けるとしたら、どうしますか?


ファイナンスやアカウンティングが苦手だったのですが、もっとしっかり勉強しておけば良かったと思います。当時は、自分はファイナンス系が苦手だし、今からやってもプロにはかなわないと一歩引いた気持ちで取り組んでいたんですが、もっと食らいついて勉強しておけば良かったというのは、少し後悔しています。

卒業当時はMBAを持っているし、元コンサルだし、どこでも転職できるだろうと強気だったんですが、いきなり財務諸表を渡されて企業分析しろと言われた時に即座に出来るスキルが身についたのかというと疑問が残るんです。当時、そういうハード系スキルは日本にいても本を読めば身に付くけどソフトスキル系はここでしか学べない、と思ってソフトスキル系の授業に力を注いでいたんですが、今思えばそれ基礎的な部分を疎かにしていたので、苦手なことももう少し頑張っていれば良かったと思います。まあ、投入できる時間は限られているので、無い物ねだりになってしまいますが。

 


 

今後の目標について教えて下さい。


会社は子供を産んでからルーティーンになりつつあるので、何年後になるかわからないですが、もうちょっと広げたいです。具体的にはもっと地方に人を連れて行きたいというのと、地方で特に若い女性の雇用創出に繋がることができたらいいなと思っています。今、お願いしているガイドさん達には、子育てしてマミートラックに阻まれて辞めた方とか、留学経験があって会社をアーリーリタイアした方とか、優秀な方々も多く、そういう経歴のガイドさんにお仕事をお願いすると、やっぱりお客さんの反応もいいんです。きっと地方にもそういう方々がいるはずで、むしろ地方だと30代以上っていうより、大学出てすぐの、優秀なのに地元に雇用がないから意に沿わない仕事している人とか、希望の仕事がないから東京や都会に出てくる準備をしている人がいるんじゃないかと想像しているんです。そういう人たちに、ツアーガイドという仕事が、かっこいい仕事だよねって目指してもらえるような職種にできたらいいなという、壮大な野望を持っています。

 

その壮大な野望の一歩として地方にもうちょっとプログラムを作って、協力してくれるようなガイドとか、 DMC(ディスティネーションマネージメントカンパニー)と呼ばれるツアーを実際に作って運営してくれる会社があれば、或いは一緒に作れたらいいなという夢があります。あと、たとえば弊社のプログラムで鎌倉彫職人さんがいますが、彼のように若い職人さんがアート作品的なものを作り始めているので、そういうものを海外に売りたいというのも考えています。

 


 

これから楽しみですね!今、 IEやMBAを目指したいと考えている人にメッセージをいただけますか?


私がMBAに行く前に先輩から言われたのは、あなたは睡眠 (Sleep)、ソーシャライゼーション(Socialization)、勉強 (Study)の3つのSのうち2つしか選べないということ。まさにその通りだったので、全部できない自分を責めないで欲しいという意味で、3つのうちから2つを選んでねと言いたいです。

 

あとは、留学前って費用対効果とか本当に意味があるのかとか考えると思うんですが、特に日本の場合、年収だけをアップしたいだけなら、コンサルや投資銀行に転職する方が確実かもしれない。じゃあ何でわざわざキャリアを中断しMBA留学に行くのかと言うと、数字でははかれない面白みを得るためではないでしょうか。自分ROIのリターンに年収以外のものを含みましょうってことですね。

 

またIEは「Get out of your comfort zone!」の精神で、いろいろなことにチャレンジする人が多いので、そうした環境の中で自分自身の価値観にも大きな影響を受けました。20代、30代のたった一年ではありますが、MBA留学は人生に対する影響が大きいので、自分の好奇心が刺激されるのであればそれに従ったらいいと思います。特に私は子供を産んでみて、自分の人生を自分だけのものとして自由自在に振る舞える期間というのは、意外に限られていると感じました。今、行くことが可能な環境に身を置いているのなら、是非、チャレンジしてみて、世界を広げて欲しいなと思います。


 

ありがとうございました!これからもワーママとして、起業家としてのご活躍楽しみにしてます!